預けたままの金型と、取引先を装う一本の電話|社外との接点にたまる法務リスクの片づけ方

AI CAO
契約書・規程の整備で会社を守る
「うちは、たぶん大丈夫だと思うんですが」
「もう何年も発注が来ていない金型を、うちの倉庫でずっと預かっています」
「取引先の担当者を名乗る電話で振込先の変更を伝えられて、そのまま処理してしまいました」
「契約書は交わしていますが、細かい条件は昔からの口約束のままです」
法務のご相談で、最初にこうおっしゃる社長は少なくありません。多くの場合、その後に「でも、これまで問題になったことはない」と続きます。
問題になっていないのではなく、何かが起きたときに、何が起きたのかを説明できる材料が社内に残っていないだけかもしれません。
中小企業の法務リスクは、契約書の条文の細かさで決まるものばかりではありません。むしろ「いつの間にかそうなっていること」——預かったままのモノ、電話一本で動くお金、書面のない発注条件——から生まれます。しかもそれは現場の担当者の頭の中にしかなく、点検されないまま何年も残ります。
発注が止まった金型の保管費用は、誰が負担するのか(出典は記事末尾)
公正取引委員会は2026年7月21日、HOYA株式会社に対して改正前下請法第4条第2項第3号(不当な経済上の利益の提供要請)に基づく勧告を行いました。
同社は32名の下請事業者に自社所有の金型・治具を貸与していましたが、遅くとも令和6年7月1日から令和8年4月17日までの間、その工具を用いた部品の発注を長期間行わないにもかかわらず、保管費用を下請事業者に負担させていた、というものです。金額は計1,452万5,390円で、同社はすでに全額を支払済み。勧告では、今後同様に中小受託事業者の利益を不当に害さないことなどを、取締役会の決議により確認することが求められました。
受注側の社長にとっての意味は、発注が止まった金型を無償で預かり続けている状態は当たり前ではないということです。倉庫のスペースも管理の手間も原価であり、返却か費用負担かを発注元に相談する根拠として、この勧告は使えます。
発注側なら点検が要ります。相手先に預けている型・治具・什器はどれだけあるか、最後に発注したのはいつか、保管費用は誰が払っているか。
「製造業の話でしょう」と読み飛ばせる話でもありません。公正取引委員会は6月29日、広告業者と広告制作業者との取引の集中調査結果を公表し、広告業者に71件の指導を行ったとしています。口頭発注などの発注内容の不明示、60日を超える支払制度による支払遅延、無償の修正・校正を求める不当な給付内容変更といった類型で、外部に委託している会社なら業種を問わず思い当たります。
取引先を装う電話が、二要素認証を通り抜ける(出典は記事末尾)
もうひとつは、IPA(情報処理推進機構)が7月22日に公表したサイバーセキュリティ相談窓口の相談状況です。2026年4月から6月の相談は合計302件。主な内訳は「その他」148件、「サポート詐欺」68件、「インシデント対応」65件。
注目すべきは、企業を狙う詐欺の特徴としてIPAが挙げた点です。攻撃者が実在する企業や組織、経営層、取引先、公的機関などを装い、正規の連絡と見分けがつきにくい形で接触してくること。そして、遠隔操作ソフトと電話を組み合わせ、二要素認証を含む各種の認証手続きを被害者自身に実施させる手口が増えていることです。
二要素認証を入れたから安全ではありません。電話で誘導され、本人が画面の指示どおりに承認すれば認証は正しく通ります。システムから見れば正規の操作です。
中小企業では経理担当が一人という体制が普通で、その一人が装われた電話と遠隔操作に同時にさらされると、その場で確認できる相手が社内にいません。振込や権限変更を電話だけで完結させないルールの明文化が、そのまま防御です。
この夏に手をつけられる、三つの棚卸し
1. 預けている/預かっているモノを一覧にする
金型、治具、什器、貸与品、支給材、原版データ。品目、相手先、預けた時期、最後に発注または使用があった日、保管費用の負担者。この5項目だけの表で構いません。作ってみると**「最後の発注が2年前」の行が必ず出てきます**。そこが是正の対象です。
AI CAOは、注文書・契約書・出荷記録からこの一覧のたたき台を作る部分を引き受けられます。完璧な台帳を目指すより、まず全部を1枚に出すことが先です。
2. お金と権限が動く連絡に「二人目」を置く
振込先の変更、初回の送金、管理者権限の付与、認証コードの入力。この4つは、依頼が電話やチャットで来た時点で止め、登録済みの番号にかけ直して確認する。承認は依頼を受けた本人ではなく二人目が行う。遠隔操作ソフトの導入は社長の許可なく行わない。
紙1枚で足ります。A4一枚に収まらないルールは現場で守られません。AI CAOは自社の体制に合わせた文面を作り、朝礼で読める長さまで削ります。
3. 取引条件と個人データを、書面と記録に寄せる
口頭発注は、下請法・取適法の観点でも、後日の「言った・言わない」の観点でも不利にしかなりません。発注内容・単価・支払期日・支払手段を書面で残す運用に寄せることが、結局いちばん安上がりです。
価格の指示にも注意が要ります。公正取引委員会は7月8日、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」を改正しました。メーカー等が小売業者に販売価格を指示して守らせる再販売価格維持行為は、独占禁止法第2条第9項第4号及び第19条により原則として違法です。改正は、その例外として通常違法とならない場合の考え方に該当する場合と具体例を追加したものです。値崩れ対策で迷ってきた社長は、自社の運用がどちらに当たるかを確認できます。
個人データも同じ棚卸しの対象です。改正個人情報保護法は2026年7月10日に成立し、7月17日に公布されました。重大な違反により個人の権利利益が侵害された場合等に、違反行為で得られた財産的利益等に相当する額の課徴金納付を命じる制度が新設されています。施行は公布の日から起算して2年を超えない範囲内で政令で定める日が原則で猶予はありますが、顔特徴データ等の周知義務化と16歳未満の本人についての法定代理人の関与の明文化も含まれます。顔認証カメラ、16歳未満の顧客データ、外注先へのデータ処理委託がある会社ほど、今の棚卸しが効きます。
Before / After
Before: 預けている金型がどこに何本あるか分からない。振込先変更は担当者が電話で受けて処理する。発注条件は「昔からこうだから」で回っている。何かあったとき、社長が根拠を示して説明できる資料が社内にない。
After: 貸与品と最終発注日の一覧がある。お金と権限が動く手続きには二人目が入る。発注条件は書面に残っている。取引先から指摘を受けても、公表資料と自社の記録を突き合わせてその日のうちに一次回答ができる。この差が交渉力になります。
よくある失敗と、避け方
- 「うちの規模なら見られていない」と考える → 勧告や指導は規模ではなく行為の類型で判断されます。取引の型が同じなら、同じ論点が自社にもあります
- ルールを作って終わりにする → 作った日に読み合わせ、半年後に読み返す日を決めておく。読み返さないルールは無いのと同じです
- セキュリティをツール導入で済む話と考える → 認証は本人が承認すれば通ります。止めるのは道具ではなく手続きの順番です
- 法改正を「施行まで待つ」 → 猶予期間は棚卸しのための時間です。施行日に慌てる会社との差は、当日には埋まりません
こんな社長に向いています
- 発注が止まった金型・治具・貸与品を、預けたまま、または預かったままにしている
- 振込や権限の変更を、電話やチャットの依頼だけで処理している
- 発注書や契約書のない取引が、社内に一定数ある
- 顧客の個人データや顔認証カメラの映像を扱うが、社内ルールが文書になっていない
- 顧問弁護士はいるが、相談するほどでもない小さな迷いを置き去りにしている
ひとつでも当てはまるなら、着手は一覧を1枚作るところからで十分です。
法務は「詳しくなる」より「片づいている」ことが効く
AI CAOは、法律に詳しい社員を1人雇う話ではありません。公表された勧告やガイドラインを自社の取引の言葉に翻訳し、貸与品の一覧づくり、社内ルールの文面、契約条件の突き合わせといった手を動かす部分を担う役割です。判断は社長が下し、その材料をその日のうちに揃えます。弁護士に相談する局面でも、整理して持ち込めば時間も費用も短くなります。
料金は月5万円(税別)。まずは試したい方には、お試し月3万円(税別)もご用意しています。