AIを使ったと「言う・言わない」の線引き、決めていますか|透かしと表示義務が同時に動いた2026年8月

AI CAO
契約書・規程の整備で会社を守る
「AIに書かせたことは、わざわざ言わなくていいですよね?」
この夏、立て続けに同じ質問をいただきました。
「提案書の下書きはAIに作らせています。取引先に、わざわざ言う必要はないですよね」
「ホームページもチラシも、文章はほとんどAIです。あとから問題になったりしますか」
「EUの法律が変わったと聞きましたが、うちは輸出もしていないので関係ないですよね」
どれも「はい」「いいえ」で終わらない質問です。そして皆さん、こう続けます。「社内で聞かれても、何と答えていいか分からない」。
止めているのは、AIを使っていることではありません。「AIを使ったと言う場面」と「言わなくていい場面」の線引きが、社内のどこにも書かれていないことです。線がないので判断が担当者ごとに違う。営業は言わず、広報は言い、外注先には何も伝えていません。
帝国データバンクが2026年3月17日から31日に全国2万3,349社を対象に実施し、有効回答1万312社を得た調査(5月14日公表)では、生成AIを「活用している」企業は全体34.5%、中小企業32.4%、小規模企業28.0%。もう「使っている前提」で線を引く時期です。
8月2日、EUで「AIだと分かるようにする」義務が始まった
欧州委員会は2026年7月31日、AI Officeと各国当局が8月2日からEU AI法(AI Act)の執行を開始し、新たな透明性規則の適用が始まると公表しました。中身は第50条の透明性義務で、大きく4つです(出典は記事末尾)。
- AIと直接対話する場合の通知(明白な場合を除く)
- 提供者による合成音声・画像・動画・テキストへの機械可読なマーキングと検知可能化
- 感情認識・生体分類システムの利用告知
- ディープフェイクおよび公共の関心事に関するAI生成テキストの明示
対象外もはっきりしています。短い数字列、ソースコード、機械間のやりとり、補助的な編集機能の出力などは対象外で、「AIが関わった文字はすべて表示せよ」という話ではありません。
猶予も限定つきです。2026年8月2日より前に市場投入された生成AIシステムについて、マーキング義務に限って2026年12月2日まで。制裁金は1,500万ユーロまたは全世界年間売上高の3%のいずれか高い方が上限ですが、中小企業・スモールミッドキャップには比例性が考慮されると明記されています。
欧州委員会は先立つ7月20日、提供者と利用者(deployer)向けのガイドラインも公表しました。利用者側が知らせるべきは、ディープフェイク、人間の確認を経ない公共の関心事に関するAI生成コンテンツ、感情認識・生体分類システムの利用です。EU向けにサイト・広告・チャットボットを出している日本の中小企業は、「利用者」として義務の対象になり得ます。 逆に、EUに届く接点がなければ直接の義務は生じません。
8月14日、「AIが書いたか」を機械で確かめる仕組みが公開された
8月14日、Anthropicは今後のClaudeモデルが生成するテキストに透かし(ウォーターマーク)を入れる仕組みを解説した記事を公開しました。EU AI Actへの対応で、方式はGoogle DeepMindがNature論文で発表したSynthID-Textの派生とされています。
実務で気になる点も書かれています。出力の品質・内容に実用上の影響はなく、読者には透かしの有無を見分けられず、隠し文字も追加されない。追加トークンを消費しないため費用も増えず、透かしに個人・組織・会話を特定する情報は含まれない。同じ行動規範に署名した他の主要開発元も独自の透かしを実装するとしており、1社の方針ではなく業界側の流れです。
社長にとって変わるのは一点です。「AIが書いた文章かどうか」を、後から機械的に判定できる前提になった。 AIに書かせること自体は問題ではありません。問題になり得るのは、AI生成を明かさない前提で受けている受託原稿など、相手が「人が書いたもの」を期待している場面です。そこだけは、取引先との約束を先に確認しておく。
社長がいま決める3つのこと
1. 「言う」「言わない」を紙一枚で線引きする
社外に出る成果物を「明示する」「聞かれたら答える」「不要」の3つに仕分けます。軸は相手がAI生成でないことを前提にしているかどうかの一点です。
取引先に納品する原稿、寄稿、体験談やレビューは「明示する」に寄せ、自社サイトの商品説明や社内の議事録・下書きは「不要」で構いません。迷ったものは「聞かれたら答える」に置き、そこに入れたものだけ契約を確認します。A4一枚で足ります。
2. 契約と発注書の扱いを、金額順に確認する
受注側なら発注元の契約書やガイドライン、発注側なら外注先に出す条件です。全件を見る必要はありません。直近1年で金額の大きい取引先から順に、10社も見れば自社の傾向は掴めます。
見るのは「成果物の作成方法に関する定めがあるか」「第三者の関与を禁じていないか」の2点。何も書かれていないなら、こちらから一文を提案しておくほうが後で揉めません。
3. 表示の作法は自作せず、公開されている雛形に合わせる
来歴標準を策定するC2PAは2026年7月8日付で、非技術者向けの「Content Credentials: Deployment Guidance」1.0版を公開しました。自組織が来歴情報を付与する側(producer)か検証する側(validator)かを見極め、既定で付与し保持するツールを選び、付与し、検証し、自社サイトで表示する、という5段階の進め方が示されています。適合性プログラムは2026年5月時点で31社54製品が通過。表示の様式を自社で発明する必要はありません。
同じ夏に動いた、もうひとつの法改正
個人情報保護委員会事務局は令和8年7月31日、7月17日に公布された改正個人情報保護法について今後の取組を公表しました。ロードマップは施行を2028年(令和10年)に置き、一部の規定(公示送達のデジタル化)は公布から6か月後に公布・施行とされています。委員会は、改正法の施行までに十分な期間を確保するとしています。
いま直ちに新しい義務が生じるわけではありません。 取得時の同意の取り方、委託先との契約、漏えい時の報告体制を点検する猶予期間と読むのが正しく、慌てて外部サービスを買う段階ではまだありません。
Before / After
Before: AIで作った文章が社外に出ているが、誰がどこまで明かしているか社長が把握していない。取引先に「これはAIですか」と聞かれてから慌てて担当者に確認する。EUの表示義務も、自社に関係あるかが判断できていない。
After: 社外に出る成果物が3つに仕分けられ、A4一枚で全員が同じ判断をする。金額の大きい取引先の契約はAI利用の扱いを確認済みで、EUに届く接点の棚卸しも済んでいる。聞かれたその場で、社長が答えられる。
よくある失敗と、避け方
- 「EUと取引がないから関係ない」で読み飛ばす → 直接の義務は生じませんが、自社のサイト・広告・チャットボットがEU域内に届いているかだけは確認する。届いていなければそこで終わりです。
- 猶予を全部に当てはめる → 猶予が認められるのは2026年8月2日より前に市場投入された生成AIシステムで、しかもマーキング義務に限られ、期限は2026年12月2日です。「12月まで何もしなくていい」ではありません。
- 透かしが入っていれば安心だと考える → 透かしが示すのは「AIが生成したか」であって、内容が正しいかどうかではありません。先の帝国データバンク調査でも懸念の1位は「情報の正確性」で50.4%。人の確認は外せません。
- 表示のルールを現場任せにする → 明かすかどうかは取引先との関係の話で、担当者が単独で決められる範囲を超えます。線引きは社長が決め、現場は当てはめるだけにする。
こんな社長に向いています
- AIで作った文章や画像が社外にどれくらい出ているか把握できていない
- 取引先に「これはAIですか」と聞かれたときの答えを決めていない
- 外注先がAIを使っているかどうか確認したことがない
- EU向けにサイト・広告・チャットボットを出している、または出す予定がある
- 契約書にAI利用の条項がないまま、受注も発注も続いている
ひとつでも当てはまるなら、手をつけるべきは新しいツールの導入ではなく、線引きの明文化です。
AI CAOは、社外に出る成果物の仕分け、契約に入れる一文の起案、社内規程の追記までを社長と一緒に進めます。法改正のニュースに不安になる時間を、「うちはこうする」と決め切る時間に変えるのが役割です。料金は月5万円(税別)。まずは試したい方には、お試し月3万円(税別)もご用意しています。