フリーランスへの支払いから、振込手数料を引いていませんか|勧告事例と警察白書が示す「放置された設定」

AI CAO
契約書・規程の整備で会社を守る
「合意してもらっているので、うちは大丈夫だと思っていました」
中小企業の社長から、法務まわりでよく聞くのはこんな声です。
- 「外注先には、振込手数料はご負担くださいとお願いしている。契約書にも書いてあるし、先方も納得している」
- 「セキュリティといっても、うちみたいな会社を狙っても仕方ないでしょう」
- 「法律が変わったと言われても、うちの何を直せばいいのか分からない」
どれも、手を抜いている社長の言葉ではありません。むしろ、決めるべきときに決めて、書面まで残してきた会社ほど出てくる言葉です。
問題は、決めた内容ではなく、決めたあと一度も触っていないことにあります。振込手数料をどちらが負担するかという支払処理の設定。社外から社内につなぐ機器の設定。決めた時点では正しかった。ところが、正しさを測る物差しのほうが動いたとき、設定だけが取り残されます。2026年8月末に相次いだ二つの公表は、その典型でした。
振込手数料の差引きで、フリーランス法違反の勧告(2026年8月26日)
公正取引委員会は令和8年8月26日、株式会社ジェイトップに対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第5条第1項第2号(報酬の減額の禁止)に違反するとして勧告を行いました。(出典は記事末尾)
同社は特定受託事業者138名との間で、振込手数料を当該事業者の負担とすることを書面等で合意していました。それでも勧告に至ったのは、令和6年11月1日から令和7年11月30日までの間、事業者の責めに帰すべき事由がないのに、実際に金融機関へ支払う振込手数料を超える額である計481,031円を報酬から差し引いていたためです。減じた額は令和8年8月5日までに支払われています。
金額よりも重いのは、公表文に付された注記です。令和7年10月1日の「考え方」改正により、令和8年1月1日以降の業務委託(1か月以上行うものに限る)については、合意の有無にかかわらず、振込手数料の差引きが報酬の減額に当たるとされています。
この事案で問われたのは「実費を超えて引いていた」ことでした。しかし対象となる業務委託については、実費の範囲内でも、合意書があっても、差し引くこと自体が認められません。「先方の了解を得ている」は、もう答えになりません。
ランサムウェア被害の報告226件のうち、143件が中小企業(令和8年版警察白書)
もう一つは、令和8年8月25日の定例閣議で報告された令和8年警察白書です。特集は「深刻化するサイバー空間の脅威と警察の新たなる展開」。(出典は記事末尾)
本編の数字です。令和7年中のランサムウェア被害の報告件数は226件。うち中小企業が143件(63.3%)で、大企業の64件(28.3%)を大きく上回りました。さらに、感染経路のアンケート(有効回答92件)では、VPN機器を利用されて侵入された事例が61件(66.3%)を占めています。
「うちみたいな会社は狙われない」という感覚は、この数字とは合いません。報告された被害の6割超が中小企業で、アンケートに答えた事例では侵入口の3分の2がVPN機器でした。狙われないのではなく、入口が開いたままだから入られていると読むほうが実態に近い。
規模を問わず問われる点は同じです。個人情報保護委員会は令和8年8月19日、KDDIとインターネットサービスプロバイダに個人情報保護法に基づく指導等を行いました。脆弱性を悪用した不正アクセスでID・パスワード1,223万1,954人分が漏えいし、うち761万6,173人分は平文のまま保存されていた事案です。脆弱性を放置していないか。保存の仕方を、決めた当時のままにしていないか。(出典は記事末尾)
いま点検する、三つの設定
1. 支払明細の「差引き」を全件洗う
外部の個人・個人事業主への支払いについて、直近3か月分の支払明細を並べ、報酬額から何かが引かれていないかを見ます。1か月以上にわたる業務委託であれば、合意の有無にかかわらず差引きが報酬の減額に当たるため、確認すべきは「合意しているか」ではなく「実際に引いているか」です。初期設定で自動的に差し引かれていることも多いので、契約書ではなく振込の実データから当たります。
2. 社外から社内に入る入口を、数える
VPN機器の台数、機種、最終更新日を一覧にします。誰も名前を言えない機器が残っていないか、退職者のアカウントが生きていないか、管理画面のパスワードが初期値のままでないか。預かっている顧客・従業員データの保存場所と保存方法も書き出します。
一覧ができれば、更新や設定変更を自社でやるか外部に頼むかを判断できます。自社だけで抱え込む必要はありません。
3. 9月を「点検の月」として使う
経済産業大臣は令和8年8月27日付で、2026年9月「価格交渉促進月間」の実施について関係事業者団体代表者宛てに周知依頼を発出しました。今回の月間からは官公需に特化した調査が新設されます。9月下旬以降、受注側中小企業30万社を対象に、主要な発注企業(最大3社)との価格交渉・価格転嫁・支払条件を問う調査などが行われ、結果に基づいて発注者ごとの取組状況が公表されます。(出典は記事末尾)
答える側であると同時に外注先を持つ発注側でもあるなら、同じ設問を自社の支払条件に当ててみてください。点検表がそのまま出来上がります。
9月から動くものは、もう一つあります。個人情報保護委員会事務局は令和8年8月26日、改正個人情報保護法の施行に向けて整備すべき主な項目の全体像を公表しました。委託先における適正な取扱い、漏えい等報告・本人通知義務の緩和、課徴金額の算定方法など、実務に直結する項目が並びます。ただし本年9月以降に議論を進め、その後にパブリックコメントを開始するとされており、中身はまだ決まっていません。いま論点を把握できるかどうかで、後の負担が変わります。(出典は記事末尾)
Before / After
Before: 合意書はある。ネットワーク機器も数年前に入れた。だから大丈夫だと思っている。実際には、支払処理は初期設定のまま毎月手数料を引き、VPN機器は誰も最終更新日を言えない。ルールが変わったと気づくのは、勧告や被害が起きたあとです。
After: 支払明細の差引きは全件が説明でき、社外から社内に入る入口は台数と最終更新日まで一覧になっている。9月の調査もパブリックコメントも、締切ではなく点検の合図として社内カレンダーに乗っている。同じ人数のままでも、「知らなかった」で止まる場所がなくなります。
よくある失敗と、避け方
- 合意書があるから問題ないと考える → 令和8年1月1日以降の業務委託(1か月以上行うものに限る)は、合意の有無にかかわらず振込手数料の差引きが報酬の減額に当たります。確認は契約書ではなく振込データから行う。
- 法改正を「施行されてから考える」と先送りする → 8月26日に示されたのは整備すべき項目の全体像で、議論は本年9月以降、パブリックコメントはその後です。決まる前だからこそ論点を押さえる意味があります。
- セキュリティ対策を「うちには過剰」と判断する → 令和7年中のランサムウェア被害の報告226件のうち143件(63.3%)は中小企業でした。判断材料は自社の規模感ではなく、報告された被害の分布に置く。
- 一度決めた設定を担当者任せにする → KDDIの事案では、パスワードを平文のまま保存していたことが技術的安全管理措置の不備とされました。保存方法は社長が定期的に確認する項目です。
こんな社長に向いています
- 外注先やフリーランスへの支払いがあり、振込手数料の扱いを長く見直していない
- 契約書や発注書の雛形はあるが、法改正に合わせて更新した記憶がない
- VPN機器やクラウドの管理画面を、いま誰が管理しているか即答できない
- 顧客名簿や従業員データの保存場所と保存方法を説明できる人が社内にいない
- 取引先や公的な調査で「御社の体制」を聞かれると、毎回答えに詰まる
ひとつでも当てはまるなら、いま点検する価値があります。事故が起きてから直す作業は、平時の点検の何倍もの時間を奪います。
法務を「詳しくなる」から「点検が回る」へ
社長に必要なのは条文に詳しくなることではなく、決めた設定が今も正しいかを決まった間隔で確かめられる状態です。
AI CAOは、契約・社内規程・取引条件の点検に伴走します。支払明細から差引きの有無を洗い出す点検表を作る。契約書や規程のどこを直すべきかを具体的な文言まで落とし込む。勧告事例や法改正の動きを自社に関係する部分だけに絞って翻訳し、いつ何を決めるかを社内カレンダーに乗せる。専任の法務担当を置けない会社でも、「知らなかった」で止まらない状態はつくれます。
料金は月5万円(税別)。まずは試したい方には、お試し月3万円(税別)もご用意しています。