手形が振り出せるのは9月30日まで、という金融機関が多い|支払期日60日以内へ、契約と資金繰りを同時に直す

AI CAO
契約書・規程の整備で会社を守る
「銀行から、手形はもう振り出せなくなると言われた」
この夏、法務のご相談で立て続けに聞く声です。
「支払サイトを短くしろと言われても、資金繰りがもたない」
「うちは取引先に無理を言った覚えはない。厳しくなるのは大企業の話でしょう」
「そもそも、いまうちが何日で払っているのか、自分でも即答できない」
三つ目が、いちばん多い答えです。止めているのは支払能力ではありません。支払の期日と手段が、注文書にも基本契約書にも書かれていないことです。「昔からこうしている」で回る条件は、法律や決済インフラが変わった瞬間に、そのまま違反側の条件になります。
9月2日、公正取引委員会と中小企業庁が支払の適正化を要請した
公正取引委員会は2026年9月2日、中小企業庁とともに、事業者団体等に対して約束手形の利用廃止を踏まえた支払の適正化を要請しました(出典は記事末尾)。押さえるべき事実は四つです。
- 2026年(令和8年)1月1日に施行された取適法により、製造委託等代金への手形の交付が禁止されている
- 電子記録債権や一括決済方式等も、受領から起算して60日以内の支払期日までに満額に相当する金銭を受領できない場合は使用が禁止される
- 2027年(令和9年)4月1日からは独占禁止法上の支払告示が施行され、取適法の対象とならない取引についても60日以内の支払が求められる
- 電子交換所での手形・小切手の交換廃止(2027年3月31日)を踏まえ、多くの金融機関が2026年9月30日を最終振出期限に設定している
最後の一つが今月の締切です。「多くの金融機関が」であって全部ではありません。自社の取引銀行の最終振出期限は必ず直接確認してください。
支払サイトを短くすれば、その分だけ手元資金は先に出ます。今回の要請では、サイト短縮で資金繰りが厳しくなる場合に金融機関へ相談することも対象に含まれています。支払条件の見直しと資金調達は、同じ日に銀行へ持ち込むのが実務的です。なお中小企業庁が2026年3月の価格交渉促進月間について実施したフォローアップ調査(受注側中小企業30万社にアンケート、69,625社が回答)では、支払期日が60日を超過する企業が6.6%残っていました。
発注を止めたあとも、義務は残る
公正取引委員会は2026年9月3日、株式会社ニチリンに対し、改正前の下請法第7条第3項の規定に基づく勧告を行いました。近畿経済産業局の調査を受け、中小企業庁長官が改正前の下請法第6条に基づき措置請求した事案です。
下請事業者25名に金型・治具を貸与して自動車用ホース等の製造を委託しながら、遅くとも2024年9月1日から2026年7月28日までの間、長期間発注を行わないにもかかわらず、計1,048個の金型等の保管費用を負担せずに保管させていた、という内容です。同社は不利益額の一部を含む計978万9,525円を支払いました。
同じ論点は7月にも出ています。公正取引委員会は7月21日、HOYA株式会社に対しても、32名の下請事業者に貸与した金型・治具の保管費用を長期未発注の間に負担させていたとして、改正前下請法第4条第2項第3号に基づく勧告を行いました。金額は計1,452万5,390円です。
二件に共通するのは、値引きの強要ではなく「そのまま置いておいて」という一言です。発注が止まった時点から、保管の費用は誰かが負担している。 発注側なら長期未発注の金型・治具と費用の取り決めを点検する論点になり、受注側なら保管費用を請求できる立場です。
相手が個人でも、書面と期日は要る
同じ9月2日、公正取引委員会は日本郵便株式会社に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)第3条第1項(取引条件の明示義務)と第4条第5項(期日における報酬支払義務)の違反で勧告しました。2024年11月1日から2025年6月30日までの間、特定受託事業者167名への業務委託で、直ちに明示事項を書面又は電磁的方法により明示せず、うち140名については支払期日を定めず、給付を受領した日又は役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった、という内容です。
8月26日には、株式会社ジェイトップに対する第5条第1項第2号(報酬の減額の禁止)違反の勧告も出ました。特定受託事業者138名と振込手数料を事業者負担とする書面等の合意がありながら、2024年11月1日から2025年11月30日までの間、事業者の責めに帰すべき事由がないのに、実際に金融機関へ支払う振込手数料を超える額である計481,031円を差し引いていた事案です。
この事案では、合意があっても実費を超えて差し引いた点が問題になりました。さらに公表文の注記により、令和8年1月1日以降になされた業務委託(1か月以上行うものに限る)については、合意の有無にかかわらず振込手数料を報酬から差し引くこと自体が報酬の減額に当たるとされています。相手が個人だから口頭で足りる、という感覚が危ない。
社長が9月中に決める三つのこと
支払条件を「ひな形」に固定する
口頭やメールで運用している支払条件を、注文書と基本契約書のひな形に書き込みます。決めるのは、支払手段(現金振込か電子記録債権か)、締日、支払期日(受領日から起算して何日か)、振込手数料の負担の四点。ひな形が一枚あれば、以後の判断は担当者ごとにぶれません。
銀行に行く日を、支払条件の見直しとセットにする
取引銀行の最終振出期限を確認し、10月以降の支払手段を決めます。サイト短縮で資金繰りが苦しくなるなら、その相談まで同じ場でしてしまう。「支払を60日以内に直したい。ついてはこの月の資金がこう動く」の順で持ち込むことです。
預けているもの・止まっている発注を棚卸しする
取引先に預けている金型・治具・部品と、その最終発注日を一覧にします。長期間発注していないものは、保管を続けるか、引き取るか、費用を誰が負担するかを決めて書面に残す。預かっている側なら、同じ一覧が協議を申し入れる材料になります。
Before / After
Before: 支払サイトは「昔からこう」。注文書には金額と納期しか書いていない。金型は預けたまま、最後にいつ発注したかも分からない。フリーランスへの発注は口頭とチャット。手形の話は聞いたが、銀行の期限は未確認。
After: 支払手段・締日・期日・手数料負担が、ひな形の一枚に書かれている。取引銀行の最終振出期限と10月以降の支払手段も決まった。預けている工具と最終発注日の一覧があり、保管費用の扱いも書面にある。判断のたびに考えるのではなく、決めた条件を運用するだけです。
よくある失敗と、避け方
- 「うちは無理を言っていないから関係ない」と読み飛ばす → 勧告の中身は値引き強要ではなく、費用負担・書面・期日という手続きの不備です。悪意の有無ではなく、条件が書かれているかで判断されます
- 9月30日を全金融機関の期限だと思い込む → 「多くの金融機関が」設定している期限です。自社の取引銀行に直接確認してください
- 支払サイトだけ短くして、資金繰りを後回しにする → 条件見直しと資金調達は同じ日に銀行へ持ち込む
- 振込手数料を一定額で引く運用を続ける → 令和8年1月1日以降の業務委託(1か月以上)は、合意があっても差引き自体が減額に当たります。自社負担に統一する
こんな社長に向いています
- 手形や電子記録債権で支払っている、または受け取っている
- 取引先に金型・治具・部品を預けている、または預かっている
- フリーランスや個人事業主に、口頭やチャットで発注している
- 注文書・基本契約書に支払期日の定めが書かれていない
- 支払条件を見直したいが、資金繰りへの影響が読めない
ひとつでも当てはまるなら、次に手をつけるべきは新しいシステムの導入ではなく、条件の明文化です。
10月以降は、もう一つ日付が動きます。厚生労働省が2026年9月3日に公表したとおり、令和8年度の地域別最低賃金の改定額は全47都道府県で答申が出そろい、全国加重平均額は1,177円。発効は10月1日から12月2日の間に順次の予定です。支払条件の見直しと人件費の改定が、同じ四半期に重なります。
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