上げた人件費を、払いきれますか|7月として過去最多の「人手不足」倒産63件と、賃上げを決める順番

AI CFO
数字で経営を見える化する財務番
「上げないと人が来ない。でも、上げたら何が残るのか分からない」
相談の場でよく聞く声です。
- 「募集の時給を上げないと応募が来ません。でも上げたら、うちに何が残るのか分からない」
- 「最低賃金がまた上がると聞きました。いくら用意しておけばいいのでしょうか」
- 「決算は黒字なのに、通帳の残高だけが毎月減っていきます」
どれも「賃上げをするかどうか」で迷っているように見えて、実は違います。
止めているのは賃上げの是非ではなく、自社がいくらまでなら払いきれるのかを、誰も計算していないことです。人件費は、一度上げたら簡単には下げられない固定費です。上限を知らないまま上げれば、資金が尽きるまで気づけません。
2026年7月の「人手不足」倒産は63件。要因の最多は「人件費高騰」
東京商工リサーチが2026年8月5日に公表した集計です。2026年7月の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連の倒産は63件で、前年同月比40.0%増。7月としては過去最多でした。
中身を見ると、要因別では「人件費高騰」が36件(前年同月比111.7%増、2.1倍)で過去最多、「従業員退職」が19件(同72.7%増)。倒産の引き金が「人が採れない」から「上げた人件費を払いきれない」へ移りつつあるということです。
さらに、資本金1千万円未満が40件(同90.4%増)と全体の63.4%を占めました。形態別では「破産」が60件(同62.1%増)で95.2%。再建ではなく破産で終わっている。気づいたときには立て直す原資が残っていなかった会社が大半だった、と読めます。
帝国データバンクが2026年8月7日に公表した分析も、同じ方向を指しています。人手不足倒産のうち、従業員や経営幹部などの退職が直接・間接の要因となった「従業員退職型」倒産は、2026年1-7月で83件(集計対象は負債1,000万円以上・法的整理による倒産)。前年同期の74件から9件・約12.2%増え、2022年以降5年連続の増加です。このペースなら、初めて年100件を超えた前年(124件)を大幅に上回り、単年で過去最多の更新が確実とされています。同社は、コスト上昇分を価格転嫁できず賃上げ原資を確保できないケースが目立つとしています。(出典は記事末尾)
人件費は、もう一段上がる見込み。ただし公表されたのは「目安」です
2026年7月28日、第75回中央最低賃金審議会が令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申し、厚生労働省が公表しました。引き上げ額の目安は全国加重平均で55円、引き上げ率換算で4.9%。目安どおりに各都道府県で引き上げが行われた場合、全国加重平均は1,176円になります。額はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円。現在Aランクは6都府県、Bランクは28道府県、Cランクは13県です。昨年度の66円・6.3%と比べれば上げ幅は縮みましたが、率では依然4.9%。地方ほど56円と重い形です。
ここで押さえておきたいのは、公表されたのは「目安」であって、確定額ではないことです。今後、各地方最低賃金審議会が調査審議のうえ答申し、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定します。社内に「55円上がる」と言い切って予算を組むのは、まだ早い段階です。(出典は記事末尾)
数字が苦手でも組める、賃上げを決める3つの順番
1. 粗利から「払いきれる上限」を先に置く
月次の売上ではなく、粗利(売上から仕入・外注などの変動費を引いた額)を12か月分並べます。そのうえで、人件費(役員報酬・社会保険料の会社負担分を含む)を同じ12か月分並べる。この2本を1枚の表にすると、「あと月いくらまでなら上げても資金が回るか」が金額で出ます。
7月の人手不足倒産の95.2%が破産だったという事実は、判断が遅れた結果でもあります。決算書は1年に1回しか出ません。賃上げは、決算書ではなく資金繰り表で決める。
2. 増える分を「幅」で織り込む
最低賃金の目安はランクによって54円と56円に分かれ、確定するのは各都道府県です。自社の所在地のランクに応じた金額を上限に、影響を受ける従業員の人数×月間の総労働時間×改定額で、月にいくら増えるかを試算します。時給者だけでなく、最低賃金に近い水準の月給者と、人件費に連動する社会保険料の会社負担分も同じ表に入れてください。
3. 原資を「取りに行く」ところまでを1枚にする
中小企業庁が2026年6月26日に公表した価格交渉促進月間(2026年3月)のフォローアップ調査では、受注側中小企業30万社にアンケートを実施し、69,625社から回答を得ています。価格転嫁率は前回から約1ポイント増の54.2%。コスト要素別では原材料費55.7%、エネルギーコスト48.9%に対し、労務費は50.0%。賃上げ分は、半分しか価格に乗っていません。一方で「価格交渉が行われた」割合は90.7%。交渉の場自体は開かれています。
さらに同庁は2026年8月4日、このフォローアップ調査の結果(2)として「発注者リスト」を公表しました。10社以上の受注側中小企業から「主要な取引先」として挙げられた発注側企業557社と、92の国の機関・地方公共団体について、価格交渉・価格転嫁・支払条件の回答状況を点数化し、4区分に分類したものです。自社の主要取引先が載っているなら、交渉前に目を通す価値があります(同庁は、このリストが各発注者の全ての状況を網羅的に整理したものではないとしています)。
この3つは、どれも「毎月、同じ形で数字を並べる」ことが前提になります。そこが続かないと、資金繰り表は途中で止まります。手を動かす部分は、いま使っている道具の中で減らせます。ChatGPTのExcel・Googleスプレッドシート向けアドインは2026年5月7日に全ユーザーへ一般提供されたと報じられており、表計算を離れずに、文章の指示で表の作成や数式の更新、シナリオ計算ができます。会計側では、フリー株式会社が2026年6月16日に「freee AIアシスタント」の提供を開始し、自然言語の指示だけで売上レポート作成などの定型業務を代行するAIエージェントを、専門知識不要・約10分で作れるとしています。
Before / After
Before: 賃上げの判断が「上げるか、上げないか」の二択になっている。根拠は前期の決算書と、社長の肌感覚。最低賃金の改定は、発効してから慌てて計算する。人が抜けた穴は、結局そのつど社長が自分で埋めている。
After: 粗利と人件費が12か月並んだ1枚の表があり、「あと月いくらまでなら上げられるか」を金額で言える。最低賃金は目安の段階から幅で織り込み済み。価格交渉には、取引先ごとの材料を持って臨む。だから、上げる決断も、上げない決断も、根拠を持って早く出せる。
よくある失敗と、避け方
- 決算書の利益を見て賃上げを決める → 利益が出ていても、現金がなければ払えません。判断材料を資金繰り表に置き換える
- 「55円上がる」と確定値のように社内へ伝える → 公表されたのは目安で、決定するのは各都道府県労働局長です。ランク別の54円・56円を上限に、幅で持っておく
- 人が辞めない前提で計画を組む → 「従業員退職型」倒産は2026年1-7月で83件、5年連続の増加です。特定の人しか分からない業務は、辞める前に手順として書き出しておく
- 価格交渉を全取引先に同じ文面で一律に頼む → 労務費の転嫁率は50.0%で、取引先ごとに状況は違います。公表された発注者リストなども材料に、相手を見て順番を決める
こんな社長に向いています
- 資金繰り表を作ったことがない、または作ってみたが続かなかった
- 賃上げの判断を、毎年その場の感覚で決めている
- パート・アルバイトの比率が高く、最低賃金の改定が直接効く
- 特定の社員が抜けたら回らない業務がある
- 取引先との価格交渉を、ここ数年していない
ひとつでも当てはまるなら、次の決算を待たず、いまある数字を1枚の表にするところから始めてください。
数字を「毎月同じ形」で出し続けるところを、AI CFOが引き受けます
AI CFOは、粗利と人件費を並べた資金繰り表を毎月同じ形で更新し、最低賃金の改定が決まったときに自社の月次コストがいくら増えるかを試算します。価格交渉の前には、原価と労務費の上昇分を取引先ごとに整理した資料を用意します。社長は、出てきた数字を見て決めるだけです。
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料金は月5万円(税別)。まずは試したい方には、お試し月3万円(税別)もご用意しています。