値上げの話を切り出せない社長へ|発注側557社の評価が並んだ「発注者リスト」を、商談の材料にする

AI CRO
営業戦略を立て、実際に動く営業責任者
「値上げをお願いしたら、次の発注が来なくなりそうで」
- 「原価も人件費も上がっている。でも、あの取引先にだけは言い出せない」
- 「去年お願いして断られて以来、その話題を出せていない」
- 「値上げ交渉って、うちでは誰の仕事なんでしょうか」
営業のご相談では、この三つが必ず出てきます。共通するのは、社長が「交渉が下手だから」困っているのではない点です。
交渉を止めているのは、度胸でも話術でもありません。テーブルに載せる材料が手元にないことです。相手がどういう会社なのか、自社のコストがいくら増えたのか。それが揃わないまま話すと「お願い」になる。お願いは断りやすいので断られ、次の一手が消えます。
材料の多くは公表されています。2026年8月には、その中でいちばん使いやすいものが更新されました。
8月4日、中小企業庁が「発注者リスト」を更新公表した
中小企業庁は2026年8月4日、価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果(2)として「発注者リスト」を更新公表しました。10社以上の受注側中小企業から「主要な取引先」として挙げられた発注側企業557社、および92の国の機関・地方公共団体について、回答企業数と、価格交渉・価格転嫁・支払条件の回答状況を点数化し、平均値に従って4区分に分類したものです。調査は30万社に配布され、回答企業数は69,625社でした。(出典は記事末尾)
大事な前提が一つ。中小企業庁自身が、このリストは各発注者の全ての状況を網羅的に整理したものではないと断っています。載るのは10社以上から主要な取引先として挙げられた発注者だけですから、載っていない取引先が良いわけでも悪いわけでもありません。リストは「相手を裁く道具」ではなく「話の入り口を選ぶ道具」です。
同じ調査については、先に6月26日に結果が公表されています。価格転嫁率は前回から約1ポイント増の54.2%。コスト要素別では原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%。「価格交渉が行われた」割合は90.7%でした。
社長の営業にとっての意味は三つ。交渉はもう例外的な行為ではないこと(9割の取引で価格の話がされています)。通りにくいのは労務費だということ(原材料費55.7%に対し50.0%。「人件費が上がったから」は原材料費ほど通っていない)。そして相手の交渉姿勢について、自社の主観ではない評価が外にあること。
人件費は、交渉が終わるのを待ってくれない
先送りできない理由も数字で出ています。東京商工リサーチが2026年8月5日に公表した集計では、2026年7月の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち「人手不足」関連倒産は63件、前年同月比40.0%増で7月として過去最多。要因別では「人件費高騰」が36件・前年同月比111.7%増の2.1倍とこれも過去最多で、資本金1千万円未満が40件(同90.4%増)と全体の63.4%を占めます。
引き金が「人が採れない」から「上げた人件費を払いきれない」へ移りつつあり、小さい会社に寄っています。
賃金の下支えはさらに上がる見込みです。厚生労働省は2026年7月28日、第75回中央最低賃金審議会が答申した令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を公表しました。目安はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円。目安どおり各都道府県で引き上げが行われた場合、全国加重平均は1,176円、上昇額55円(昨年度は66円)、引き上げ率換算で4.9%(昨年度は6.3%)となります。
限定を落とさないでください。これはあくまで目安です。 今後は各地方最低賃金審議会が調査審議のうえ答申し、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定します。社内の試算は「目安どおりなら」の条件つきで回してください。それでも率では4.9%、地方ほど56円と重い。パート比率の高い現場では、この分を受け取らないと利益が消えます。
値上げ交渉を「営業の工程」に入れる三つの手順
三つとも中身の九割は「資料づくり」で、AIと相性がいい。フォーバルGDXリサーチ研究所が2026年8月21日に公表した調査(全国の中小企業経営者1,653人が対象。AIの仕組みや活用メリット、または概要を認知している企業への設問)では「既に業務で活用している」が36.9%、未導入企業の障壁は「どの業務に使えるかわからない」47.9%が上位。その「どの業務」への答えが、価格交渉の下ごしらえです。
1. 取引先を「区分」と「自社の数字」で並べ替える
まず主要取引先の一覧を作ります。列は、リスト上の区分、直近1年の売上、粗利率、前回価格を改定した年月、担当者名。「最後に価格の話をしてから何か月経ったか」を足すと、順番は自然に決まります。
区分が低い相手を後回しにする必要はありません。他社も同じ苦労をしているということですから、単価が動きにくい相手なら、価格ではなく支払条件や数量の約束から入る設計に切り替えられます。リストは「誰から行くか」ではなく「何から話すか」を決めるために使ってください。
2. 労務費の根拠を、交渉の前に文書にしておく
労務費の転嫁率が50.0%と原材料費より低いのは、根拠が示しにくいからです。原材料は請求書が出ますが、人件費は自社の内部事情に見えてしまう。
ですから1枚にまとめます。自社の該当ランクと目安額(目安どおりなら、と明記)、直近1年で上げた時給と人数、その結果1時間あたり・1個あたりのコストがいくら増えたか。この「1単位あたりいくら」まで落ちていれば話は交渉になります。落ちていなければ、お願いのままです。
3. 自社が発注側に回る取引も、同じ物差しで点検する
社長の会社は、受注側であると同時に発注側でもあります。次回の調査で名前が挙がる可能性は、どの会社にもあります。
支払条件は先に見てください。6月26日公表分では、支払手段を「現金のみ」とする回答が87.5%に増えた一方、支払期日が60日を超過する企業が6.6%残ります。自社が当てはまるなら、交渉前に直す順番です。
あわせて経済産業省は2026年7月7日、7月6日時点で「パートナーシップ構築宣言」の宣言企業数が10万社に到達したと公表しました。発注者側の立場から、代表権のある者の名前で共存共栄などを宣言する取組です。中小企業庁の受注側企業調査では、宣言企業は未宣言企業と比べて価格交渉・価格転嫁への対応が良好であることが示され、補助金審査の加点措置等でも活用されています。
Before / After
Before: 値上げの話は、思い出したときに話しやすい取引先から切り出していた。根拠は「うちも人件費が上がりまして」の一言。断られたら記録も残らず、次に持ち出すのは翌年。その間にも人件費は上がり、粗利が静かに削れていく。
After: 主要取引先が区分と自社の数字で並び、話す順番と内容が先に決まっている。労務費の増加は「1単位あたりいくら」で示せる状態になり、交渉の記録は次回に引き継がれる。自社の支払条件も点検済み。社長が担うのは、切り出す勇気ではなく、どこで折り合うかの判断だけになります。
よくある失敗と、避け方
- リストに載っていない取引先を「問題なし」と読む → 中小企業庁自身が網羅的ではないと明記しています。載っていない相手は自社の取引実績データで判断を
- 目安の55円を「決まった数字」として社内に流す → 全国加重平均55円・1,176円は目安です。今後各地方最低賃金審議会の答申を経て各都道府県労働局長が決定します
- 値上げ幅だけ決めて、根拠を後から用意する → 労務費の転嫁率が原材料費より低い以上、根拠の弱い依頼から落ちます。順番は根拠が先、金額が後です
- 交渉を社長一人が抱える → 「価格交渉が行われた」割合は90.7%。例外行事ではなく通常業務ですから、担当と期限を決めた工程に落としてください
こんな社長に向いています
- 前回いつ価格を改定したか、取引先ごとにすぐ答えられない
- 人件費は上がったが、それが1個あたりいくらのコスト増なのかを出していない
- 値上げの話を切り出す相手を、話しやすさで選んでいる
- 自社の支払条件(手段・期日)を、この1年見直していない
- 交渉の結果が担当者の頭の中にしか残っていない
ひとつでも当てはまるなら、足りないのは交渉力ではなく、交渉に持っていく前の準備の型です。
AI CROは、この準備を社長の代わりに回します。取引先一覧の設計と並べ替え、公表資料の該当箇所の読み解き、労務費増加の1単位あたりへの換算、交渉で出す1枚の作成、断られたときの次の一手と再提案の時期。売れないのではなく、売る前の工程が空欄なだけ、という会社が本当に多いのです。
料金は月5万円(税別)。まずは試したい方には、お試し月3万円(税別)もご用意しています。